「AIを導入したいが、自社では何に使えるかわからない」。そんなときは、同じ規模の企業が、どの業務を変え、どのように使い続けているかを見ると、検討の手掛かりになります。
この記事では、中小企業白書とIPAの公開資料から、営業支援、技術継承、業務ソフトの内製化に取り組む3社を紹介します。取り組みと報告された成果を整理したうえで、自社で試す業務の選び方、効果の測り方、CRMと組み合わせる考え方を解説します。
1.中小企業のAI導入事例は、何を比較するとよい?
「AI導入」という言葉には、文章の要約や作成、知識の学習支援、ソフトウェア開発の補助など、異なる使い方が含まれます。本記事でも、すべてを同じ種類の生成AIや、完成済みの自動化システムとして扱わず、業務の違いに注目します。
| 企業 | 主な業務 | AI活用の対象 | 参照資料 |
|---|---|---|---|
| オプトサイエンス | 光学機器の輸入販売 | 資料の理解・広告案の作成 | 2026年版中小企業白書[1] |
| タヤマスタジオ | 南部鉄器の製造・販売 | 基礎的な技術・知識の継承 | 2025年版中小企業白書[2] |
| スガイ | 金属加工 | ソフトウェアの内製化 | IPAの地域DX事例(2026年4月)[3] |
どの程度負担だったか
業務変更をどう組み合わせたか
運用中・試行中・今後の計画か
例えば、広告への問い合わせが増えた事例と、教育方法を変えた事例では、見る指標が異なります。自社の課題に近い取り組みを選び、使った資料、確認する人、継続に必要な作業まで考えましょう。
2.事例1:オプトサイエンス|営業資料の理解と広告作成を支援
課題と取り組み
同社では、専門性の高い英語資料の理解や広告作成が営業担当者の負担でした。生成AIで論文の要約やマニュアルの翻訳、広告案の作成を支援。勉強会を設け、出力を人が確認・修正する運用も進めています。[1]
公開資料が伝える成果
白書は、営業担当者の知識の補完や負担の軽減に加え、広告のレスポンスが平均で2倍以上になったと紹介しています。これは同社の事例で報告された数値で、ほかの企業における効果の予測値ではありません。[1]
自社で参考にするなら:確認済みの資料から、案を作る
営業が繰り返し読む製品資料や、提案時に確認する説明を一つ選び、要点整理と下書きに使う方法が考えられます。価格や仕様など、顧客へ伝える内容は元資料で照合します。
効果を確かめる際は、文章ができるまでの時間に加えて、確認・修正に使った時間を測ります。広告を試すなら、掲載先や期間、訴求内容も記録し、AIの利用以外に変わった条件がないかを見ます。
3.事例2:タヤマスタジオ|技術継承にAIを組み合わせる
課題と取り組み
同社は、若手育成と生産性の両立を目指し、工程を簡略化した新製品を開発。さらに、熟練者への聞き取りなどから、鋳造の基礎知識や不良の仕組みをAIで学べる取り組みを進めています。[2]
公開資料が伝える成果
白書では、新製品の開発とAI活用を組み合わせた結果として、入社3年目の若手が製品を一人で完成させていると紹介されています。AIだけで全工程の習得期間を短縮した事例とは読み替えないことが大切です。[2]
自社で参考にするなら:教える内容を、扱える単位に分ける
経験者の判断を丸ごと再現しようとせず、基礎知識、よくある質問、確認する順番などを整理する方法があります。資料で説明できる部分と、実地の指導や熟練者の判断が必要な部分を分けましょう。
営業や顧客対応へ応用する場合も、製品の基本説明、問い合わせ時の確認項目、過去の対応例を整理することが出発点になります。AIから得た回答を覚えるだけでなく、実務で正しく説明・判断できるかを確認します。
4.事例3:スガイ|必要な機能を絞り、ソフトウェアを内製化
課題と取り組み
同社は、在庫管理や情報の属人化を課題に、必要な機能を絞ったデジタル化を推進。生成AIを使うソフトウェア内製化にも取り組み、自作プログラムをWebで公開しています。[3]
公開資料が伝える成果と進行段階
IPAの記事は、公開したソフトを地域の事業者に使ってもらい、意見を改善へつなげる動きを紹介しています。一方、在庫のバーコード管理には試行の段階も含まれます。AIだけによる在庫業務の完全自動化と捉えないようにします。[3]
自社で参考にするなら:必要な機能と運用を先に決める
「AIで何でも作る」より、誰が何を入力し、何を確認できれば業務が進むかを整理します。既存システムの設定で足りる部分と、追加の機能が必要な部分を分けて考えましょう。
ソフトウェアを作る場合は、動く画面だけで完成とせず、権限、入力の不備、データの保存・復旧、更新できる人の確保も必要です。生成されたプログラムは、担当する技術者による確認と、実際の業務条件での検証を経て利用します。
5.公開事例から、自社のAI導入を考える3つの観点
3社は目的や進行段階が異なります。ここからは、事例を参考に自社で検討するための提案として、業務の選定、材料と確認、継続する運用の3点を整理します。
完成条件を具体化する
根拠を確認する人を決める
効果測定・改善を組み込む
業務名より、具体的な作業を選ぶ
「営業にAIを導入する」だけでは、使う場面が広すぎます。「初回商談の前に資料を読み、質問を作る」「面談メモから次回対応を整理する」など、開始と終了を判断できる作業へ分けます。
頻度があり、材料を用意でき、完成した内容を人が確認できるものから選ぶと、試行の条件をそろえやすくなります。
使う資料と、確認する人をそろえる
古い製品資料や、別案件の記録が混ざると、文章が自然でも誤った案内につながることがあります。対象、更新日、資料の利用範囲を確認します。事実、仮説、未確認事項も分けましょう。
顧客へ送る文章は担当者が、ソフトウェアは担当する技術者が確認するなど、利用する内容に合った確認の役割を決めます。
利用開始後の、見直し方を決める
指示のひな型だけでなく、資料の更新、回答の修正、使い方の相談を誰が担当するかを決めます。現場で使いにくい点を集め、対象を増やすか、使い方を変えるか、元の方法へ戻すかを判断します。
6.中小企業がAI導入を小さく始める手順
まずは、現在の作業がどこで滞っているかを確認します。AIの機能から選ぶ方法に加えて、時間のかかる作業や、担当者によってばらつく作業から候補を出す方法があります。
| 困っていること | 試す作業の候補 | 用意する材料 |
|---|---|---|
| 営業資料を読む時間が長い | 要点と確認すべき質問の整理 | 利用できる製品資料、確認済みの顧客情報 |
| 商談後の記録が遅れる | 要望・未確認事項・行動の整理 | 商談メモ、CRMの記録項目 |
| 同じ質問が社内で繰り返される | FAQ候補の整理、回答案の作成 | 承認済みの手順や説明 |
| 問い合わせの引き継ぎに時間がかかる | 経緯と未解決事項の要約 | 問い合わせ原文、対応履歴 |
これは自社で試すための提案例です。紹介した3社がこの表の業務をすべて実施しているという意味ではありません。
- 対象を一つ決める担当者、使う資料、完成条件、AIに任せる範囲を決める。
- 現在の作業を記録する件数、時間、修正や聞き直し、完成した内容の品質を確認する。
- 人が確認する形で試す準備・生成・確認・修正・記録を含め、同じ種類の作業で比較する。
- 続ける範囲を決める品質と負担を見てひな型を修正。必要なら連携や対象の拡大を検討する。
成果は、時間と品質の両方で測る
| 対象 | 見る指標の例 | あわせて確認すること |
|---|---|---|
| 資料整理・文章作成 | 準備から完成までの時間、修正の量 | 事実の誤り、条件の漏れ、根拠の確認 |
| 教育・知識共有 | 質問対応に使う時間、説明や判断の理解 | 実務でできる範囲、引き続き指導が必要な点 |
| 業務ソフト | 入力・確認の負担、実際に使われる頻度 | 誤処理、保守・更新、障害時の対応 |
| 営業・問い合わせ管理 | 記録の遅れ、担当未定や未対応の件数 | 担当・期限の正確さ、引き継ぎ後の対応 |
費用には、利用する製品やAIの料金、必要な連携・開発、資料整備、確認・保守の作業が含まれます。AIが出力する時間だけで判断せず、新たに必要な運用負担も含めて、同じ期間で比べましょう。
7.営業・顧客対応では、CRMと組み合わせて考える
資料の要約やメモの整理ができても、担当者のチャットにだけ結果が残ると、次の対応や引き継ぎに使いにくくなります。顧客・商談・対応履歴に関連付けて、確認した内容を記録する方法を決めましょう。
- 1.対象を指定利用できるメモと、顧客・商談を確認
- 2.AIが整理要望・経緯・未確認事項・行動候補を作る
- 3.担当者が確認原文を照合し、担当者と期限を確定
- 4.CRMに記録確認済み情報と次の対応を共有する
最初は確認後に手動で記録する方法から試せます。量が増えて転記が負担になる場合は、取得する情報、書き込む項目、承認、失敗時の通知などを決めて連携を検討します。
VtigerCRMを使う場合も、対象業務と必要な機能から決める
VtigerCRMなどのCRMと組み合わせる場合は、利用している版や環境を確認し、記録項目、顧客の識別、担当・期限の管理を整えます。AIによる整理と、CRMへの反映がどこまで実現できるかを確認しましょう。
公開事例の成果を、自社やvtplusの成果として扱わず、まずは自社の小さな試行で確かめます。必要な設定・追加開発・外部サービスや、運用を担当する人まで含めて検討することが大切です。
8.中小企業のAI導入でよくある質問
従業員が少ない会社でも、AIを導入できますか?
紹介した事例には、掲載時点で従業員8名や社員12名の企業も含まれます。ただし、人数だけで適性は決まりません。対象業務の頻度、利用できる資料、確認できる人、費用をそろえて判断しましょう。
成功事例と同じツールを使えば、同じ効果が出ますか?
同じ効果が出るとは限りません。資料の状態、担当者の知識、業務の変更、利用期間などで条件が変わります。ツール名だけでなく、何を変えたかを参考にし、自社で検証します。
まず生成AIを使えばよいのでしょうか?
課題によっては、入力項目の整理、既存システムの通知、手順書の更新で改善できる場合があります。文章の要約や下書きなど、AIを使いたい部分を具体化して選びましょう。
社内に専門担当者がいなくても始められますか?
会社が利用を認めた環境で、内容を確認できる作業から試す方法があります。個別のシステム連携やプログラムの開発・運用へ進む場合は、必要な技術確認と保守の担当を確保します。
AIで顧客情報を扱うときは、何を決めますか?
使ってよい情報、アクセスできる人、外部へ送る範囲、利用・保存の条件を、契約と設定に合わせて確認します。最初は不要な個人情報を省き、出力の確認とCRMへ反映する範囲も決めておきます。
9.まとめ|成功事例を、自社の小さな検証へつなげよう
中小企業のAI活用は、営業資料の理解、知識の共有、ソフトウェア開発の支援など、さまざまな業務で取り組まれています。成果を見る際は、AI以外の変更や、現在の進行段階も含めて確認しましょう。
まずは自社の作業を一つ選び、材料、確認方法、時間と品質の指標をそろえます。営業や顧客対応では、整理した情報をCRMの記録や次の行動へつなげるところまで考えると、継続して使うための検討が進みます。
参考資料
- 中小企業庁:2026年版中小企業白書(PDF) — 株式会社オプトサイエンスの掲載事例。
- 中小企業庁:2025年版中小企業白書・第4節 労働生産性・設備投資 — タヤマスタジオ株式会社の掲載事例。
- IPA 地域DX推進ラボ:DX認定取得事例~株式会社スガイ — 2026年4月15日公開。
